立食い蕎麦屋を除き、自家製麺をしている蕎麦屋の全国チェーンに「そじ坊」があります。店舗数は95店舗です。では、うどんの全国チェーン店はどうでしょうか。1位の「丸亀製麵」は829店舗、2位の「はなまるうどん」が463店舗です。うどん屋に比べて、蕎麦屋はチェーン店になりづらく個人店が多い傾向にあります。それは何故でしょうか?
そばとうどんの違いに製麺の難易度があります。
そば打ちで一番難しいのが、最初の工程の水回しです。そば粉に加水し、そば粉全体に水が行き渡るように指先で混ぜ合わせる作業です。昔から「木鉢三年、延し三ヶ月、切り三日」と言われています。
小麦粉にはグルテニンとグリアジンという二つのたんぱく質が含まれています。小麦粉に水を加えてこねることによって異なるたんぱく質が結びつきつながりあい、粘着性と弾性を適度に備えたグルテンになります。このグルテンには、粘りと弾力性があります。これは、細長くのばしたり、薄くのばしたりしても切れないということを意味します。ソバにはグルテンが含まれません。そこにそば打ちの難しさがあります。「二八蕎麦」はグルテンを含む小麦粉をつなぎとして混合して作るやり方です。そば粉だけで作る「十割蕎麦」は、ソバに含まれている水溶性のタンパク質の粘りのみを利用して麺にします。
現代の蕎麦屋は手打ちだけではなく機械打ちが多くなっていますが、それでも加水の加減など、うどんに比べるとそばの製麺は格段に難しくなります。
信州大学名誉教授
井上 直人
信州大学名誉教授、農学部・特任教授(研究)、公立諏訪東京理科大学・客員教授。農学博士。
ソバや土壌の研究・普及活動に取り組んでいます。
ソバは産地、品種で大きな違いがあり、蕎麦屋はもちろん、蕎麦好きを称すお客様もその違いを楽しむのを醍醐味の一つとしています。またそば粉は、挽き方や保存状態で味や香りが敏感に変化します。そば粉は熱を持つことで性質が変化し、独特の香りも飛んでしまいます。
蕎麦屋ではそば粉の状態を常に把握することが、安定した味のそばを打つためには大切な要素です。しかし、そば粉の味や香りなどの食味を評価する客観的な基準はなく、蕎麦屋や製粉業者の経験と勘に頼っているのが現状です。井上直人名誉教授は、そば粉の風味を、微弱な蛍光を利用して簡易に評価する装置を開発しました。そば粉の風味(香り・味・鮮度・緑度)の4項目を0~100の数値で表すことができます。
そばを打つには、水回し、茹で、締め、出汁とそれぞれの過程で必ず水が使われます。
「そば打ちに適している水は、超軟水かアルカリイオン水を使うと浸透性が良い」と、ネットでは記載されることが多いです。それは本当でしょうか。
信州大学農学部では様々な性質の水でそばを打ち、破断試験を行うことで、そばの千切れやすさ、硬さ、弾力、粘度を測定しています。科学的に蕎麦に合う水の研究をしています。
過去にミシュランで 1 つ星を獲得しており、今も毎年ビブグルマンに選出されています。昼夜ともに行列 が絶えない人気店です。会津産の玄蕎麦を石臼で製粉。店主の長谷川健二氏は郷里の会津に思いを寄せ、 農家から直接仕入れています。